
懐くインコと懐かないインコはどう違うのか
インコにも性格があり、初めてお迎えした時点で「懐く子」「懐きにくい子」の違いはたしかに存在します。一般的には、懐くインコは好奇心が強く、積極的で、人間に対して興味を示しやすい個体です。目を輝かせて寄ってきたり、ケージ越しにこちらを観察してくる子は、懐きやすい傾向があります。
反対に、懐かないインコと呼ばれがちな子は、いつも奥に隠れてしまったり、人の手や身体を怖がり、必要以上に警戒してしまう子です。静かで臆病、何かあるとすぐ飛び逃げる、餌を食べる時でさえ周囲を伺って落ち着かない…。そんなインコは「懐きにくい」と思われがちです。
しかし、荒鳥を懐かせた経験のある筆者に言わせると、実は“懐かないインコはこの世に1羽もいない”のです。どんな子でも、根気と優しさと工夫さえあれば、必ず心を開いてくれる瞬間が訪れます。
セキセイインコは臆病だけど、世界でも屈指の好奇心の持ち主
セキセイインコは本来、とても臆病な鳥です。自然界では天敵に狙われる立場なので、何かあればすぐ警戒します。その一方で、インコの中でも特に好奇心が強く、興味を持ったものには自ら近づいていく性質があります。
この「臆病」と「好奇心」の両方を持っているのがセキセイの面白いところで、人間との関係でもここが大きな鍵になります。怖いと感じれば全力で逃げるけど、安心できる場所と理解すれば、ゆっくり、けれど確実に距離を縮めてくれるのです。
ただし、一度“人間は怖い”と覚えてしまったインコは難易度が跳ね上がる
問題なのは、一度でも「怖い思いをしたインコ」です。捕まえられた、無理やり触られた、急に大きな動きをされた、そんな経験があると、インコは記憶として深く刻み込みます。
こうなると、普通の手乗りトレーニングではうまくいかず、接し方を間違えると距離がさらに遠ざかることもあります。実際、筆者が最初に迎えた1羽目のセキセイも荒鳥で、指を見るだけで逃げ回る子でした。
荒鳥はどうやって懐かせるのか|仲間が鍵になる理由
結論から言うと「仲間の存在」が懐きにくいインコを救います。セキセイインコは仲間意識の非常に強い小鳥で、自然界では大きな群れで過ごしています。常に仲間で行動し、天敵に備える本能があるため、一羽で孤独に過ごす状況が苦手なのです。
だから、すでに手乗りのインコがいる場合は、その子が「人間は怖くないよ」と身をもって教えてくれるので、荒鳥が懐くスピードは驚くほど早くなります。人間が直接教えるより、仲間から教わる方が自然だからです。
筆者が荒鳥を懐かせた実体験
とはいえ、最初の1羽目が荒鳥の場合、仲間からの学習はできません。筆者もまさにそのケースでした。最初に迎えたインコは、手どころか近寄るだけで逃げ回る子。放鳥中に手に乗るなんて夢のまた夢でした。
そこで選んだのが「ケージ内で懐かせる方法」です。放鳥してしまうと広すぎて、こちらの意図が伝わらず、怖がらせてしまう可能性が高いからです。
オーツ麦を使った地道すぎるトレーニング
まず、餌入れの小さな扉を開け、手のひらにオーツ麦を山盛りにしてゆっくり差し入れます。動かしてはいけません。ただ「そこに手があるだけ」にします。
最初の数日は、インコは遠くから警戒して見ているだけ。何をしても近づきません。それでも動かしません。止まり木になるつもりでひたすら待ちます。
ある日、インコがそっと近づいてきました。そして、緊張で羽を震わせながら、ほんの一粒だけオーツ麦をついばんでくれたのです。この瞬間、半年ほどの努力が実を結び始めました。
その後も手は動かさず、同じことを続けることで、インコは少しずつ少しずつ「この手は安全だ」と学び、最終的には手のひらに乗って食べるようになりました。
懐かないインコはいない。時間と根気が全て
インコを懐かせる作業は派手さがありません。むしろ地味の極みです。毎日同じことを繰り返し、少しの進展に喜び、焦る気持ちを抑えながら接します。怖がらせてしまえば一気に後退するので、常に優しさと忍耐が試されます。
放鳥中に手に乗るようになるまで、筆者は1年以上かかりました。けれど、その時間は必ず報われます。インコは賢く、優しく、思った以上に心の深い生き物です。
懐かないインコなんていません。
ただ、心の扉を開くスピードが違うだけです。
あなたの手が「安心の象徴」になる日を、インコは必ず見つけてくれます。急がず焦らず、仲間として向き合っていけば、いつか必ず、小さな足があなたの手をそっと踏みしめてくれるでしょう。
